鬼ごつこ [新訳版]

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作品データ

作品名:鬼ごつこ
作品名読み:おにごっこ
著者名:芥川 龍之介
初出:「苦楽」1927(昭和2)年
原作:青空文庫『鬼ごつこ』

本の難易度:★☆☆☆
読了目安時間:5分

本文

本作品は原作を読みやすいように改編したものになります。

鬼ごつこ

彼はある町の裏で年下の彼女と鬼ごっこをしていた。まだあたりは明るいが、ちょうど町角の街灯にはガス灯がともる時間だった。

「ここまで来い。」

彼は楽々と逃げながら、鬼になって追いかけてくる彼女を振り返った。彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追いかけてきた。彼はその顔を見たとき、妙に真剣な顔をしているなと思った。

その顔はかなり長い間、彼の心に残っていた。しかし、年月が流れるにつれて、いつかすっかり消えてしまった。

それから二十年ほどたった後、彼は雪国の汽車の中で偶然彼女と再会した。窓の外が暗くなるにつれ、冷たさが急に身にしみる時間だった。

「しばらくでしたね。」

彼は巻煙草をくわえながら、ふと彼女の顔に目を注いだ。(それは彼が同志と一緒に刑務所を出た三日目だった。)彼女は最近夫を失って、両親や兄弟のことを熱心に話していた。彼はその顔を見たとき、妙に真剣な顔をしているなと思った。同時に、自分がいつの間にか十二歳の少年の心に戻っていることに気づいた。

彼らは今、結婚して郊外に家を持っている。しかし、彼はその時以来、あの妙に真剣な彼女の顔を一度も目にしたことはなかった。

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